時速数十キロで巡航している最中にエンストが発生した場合、車内では通常運転時にはあり得ない物理現象が同時に発生します。この変化を事前に脳内でシミュレーションできていないドライバーは、ほぼ確実にパニックに陥ります。
エンジンが停止した瞬間、インテークマニホールドの負圧を利用していた「ブレーキ倍力装置(ブレーキブースター)」と、油圧・電動の「パワーステアリング」のアシスト機能が停止します。その結果、「フットブレーキが鉄の塊のように重くなり、いくら踏んでも奥に入らない」「ハンドルが異常に重くなり、曲がらない」という極限状態に直面します。
しかし、これはブレーキやステアリングが壊れたわけではありません。アシストが切れただけであるため、「両腕に力を込めてハンドルを握り込み、フットブレーキを全体重をかけて底まで力いっぱい踏み抜く」ことで、車は確実に制御できます。この瞬間に取るべき走行中のエンスト対処法は以下の通りです。
まず何よりも先にハザードランプと安全確保を行います。後続車は前走車が動力を失っていることにすぐには気づきません。ハザードランプを即座に点灯させて異常を知らせつつ、車両に残っている「慣性(惰性)」を最大限に利用して、緩やかに道路の左側路肩へと車を寄せていきます。
路肩に停止できたら、落ち着いてエンジン再始動の手順を実行します。
- フットブレーキを強く踏み込んだ状態を維持する。
- シフトレバーを「P(パーキング)」または「N(ニュートラル)」に確実に入れる(Dレンジのままでは安全装置が作動してセルモーターが回りません)。
- パーキングブレーキ(サイドブレーキ)をしっかり引く。
- プッシュスタートボタンを押す、またはイグニッションキーを回して再始動を試みる。
もし異音(ガリガリという金属音)がしたり、セルモーターが全く回らなかったり、ガソリン臭が漂ったりする場合は、無理な再始動の試行を直ちに中止してください。燃料漏れによる火災や、エンジン内部の破損を拡大させる恐れがあります。