インターネット上の掲示板やSNSでは、「刑務作業をしなくてよいのだから、禁錮刑は懲役刑よりはるかに楽な天国のようなもの」と語られることが珍しくありません。しかし、現場の矯正施設の実情や受刑経験者の証言を取材すると、その認識はまったくの誤りであることが分かります。
禁錮刑を科された受刑者は、刑務作業の義務がないため、基本的には日中の大半を単独室(独房)の中で過ごすことになります。しかし、私語や自由な運動は厳しく制限され、テレビを自由に見たりスマートフォンを操作したりできるわけではありません。読書や手紙の執筆は一定程度許されるものの、何もない空間で何時間も座り続け、ただ時間の経過を待つ生活は、人間の精神に破壊的なダメージを与えます。
かつて禁錮刑で服役した人物の手記や、矯正保護の現場担当者の証言からは、閉鎖空間特有の過酷な心理状態が克明に語られています。
「最初の数日は体を休められると感じたが、1週間も経つと壁の染みを数えることしかやることがなくなる。過去の過ちや被害者への申し訳なさ、将来への絶望が際限なく頭を巡り、発狂しそうな孤独感に襲われた。作業をしている懲役囚の規律正しい物音が、羨ましくて仕方がなかった」
こうした極度の精神的負荷から逃れるため、禁錮受刑者には「請願作業」という制度が用意されていました。これは受刑者自らが「刑務作業を行いたい」と刑事施設の長に申し出る仕組みです。
法務省の公表データによると、禁錮受刑者の実に80%〜90%前後が自ら請願作業を申し出ていたという驚くべき実態があります。人間にとって「強制される苦痛」よりも「何もすることが与えられない虚無と孤立の苦痛」の方が耐え難いという心理的メカニズムが、この高い請願率に如実に表れています。「作業がない=楽」という世間のイメージは、閉鎖処遇のリアリティを欠いた机上の空論に過ぎません。