強大な国家権力と捜査能力を有する検察官に対し、一個人が法廷で対峙することは極めて過酷です。そのため、日本国憲法と刑事訴訟法は、刑事裁判 被告人の権利として手厚い防御手段を制度化しています。
その筆頭が、憲法第38条第1項で保障されている黙秘権(自己負罪拒否特権)です。「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と規定されており、被告人は法廷での質問に対して終始沈黙を保つことができます。法廷において沈黙したことそれ自体を理由に、裁判官が「反省していない」「やましいことがあるから答えないのだ」と不利に評価することは法律上厳格に禁じられています。
さらに、武器対等の原則を担保する生命線が、憲法第37条第3項に基づく弁護人依頼権です。自身で弁護士を雇う資力がない場合でも、一定の要件(現金や預貯金などの資産が50万円未満など)を満たせば、国がその費用を負担して弁護士を選任する国選弁護人 被告人制度が利用可能です。裁判員裁判の対象となる重大事件はもちろん、起訴後の事件においてはほぼ例外なく国選弁護人の選任請求が認められています。
その他にも、被告人には以下のような多角的な防御権が憲法上・手続法上確立されています。
- 公平かつ迅速な公開裁判を受ける権利(憲法第37条第1項):秘密裏の裁判を排除し、密室での恣意的な判決を防止。
- 証人尋問権および証拠開示請求権(憲法第37条第2項):検察官が法廷に提出した証拠だけでなく、手持ちの証拠を開示させ、証人に対して反対尋問を行う権利。
- 推定無罪の原則(刑事訴訟法第336条):検察官が「合理的な疑いを超える証明」を果たせない限り、裁判所は無罪判決を言い渡さなければならない鉄則。
これらの権利は、犯罪者を優遇するための特権ではありません。歴史上幾度となく繰り返されてきた国家権力による弾圧や冤罪の悲劇から、無辜の市民を守るために構築された民主主義社会の不可欠な防壁です。