なぜ、コミケやライブのたびに予約争奪戦が起きるほどの人気を誇った宿が、突如として幕を下ろすことになったのでしょうか。当時を知るホテル業界関係者や不動産コンサルタントの証言を総合すると、東京有明ベイホテルの閉館理由には、単なる一時的な資金繰りにとどまらない「3つの致命的な構造リスク」が存在していました。
第一の打撃は、東京ビッグサイトの稼働停止と同人・展示会イベントの完全消滅です。有明ベイホテルは売上の大半を「東京ビッグサイトおよびお台場周辺の催事客」に依存する特化型モデルを採用していました。2020年から2021年にかけてコミックマーケットは相次いで開催中止に追い込まれ、一般展示会もオンライン化や規模縮小を余儀なくされました。週末の爆発的な需要で平日の稼働を補っていた収益構造が、根底から崩壊したのです。
第二の要因は、インバウンド(訪日外国人客)の消失と東京五輪の無観客開催でした。同ホテルはお台場・豊洲市場・銀座方面へのアクセスも良好だったため、低予算で東京を周遊する外国人バックパッカーの利用が収益の下支えとなっていました。さらに、東京2020大会での特需を見込んで結ばれていた不動産賃貸借契約のランニングコストが、大会の無観客化決定によって重くのしかかる結果となりました。
第三の壁となったのが、カプセルホテル特有の空間構造と固定費の負担です。当時の公衆衛生基準やソーシャルディスタンスの要請により、カプセルユニットの満室稼働が制限され、換気設備等の追加改修費用も発生しました。客単価が1泊3,000円〜6,000円程度とリーズナブルであった反面、損益分岐点となる稼働率のラインが極めて高く、低稼働が数カ月続いただけで巨額の赤字を垂れ流す体質へと転落してしまったのです。経営陣は長期化する需要低迷を見越し、定期借家契約の更新タイミング等に合わせて「傷口を広げないための勇気ある撤退」を決断したと分析されています。