事件の発端は、カネボウ化粧品がシラカバの樹皮などに含まれる天然成分に着目し、約10年の歳月をかけて独自開発した新規美白有効成分ロドデノールでした。2008年に厚生労働省から医薬部外品有効成分としての承認を受け、「カネボウ ブランシール スペリア」や「インプレス」などの主力ラインに高濃度(2%)で配合され、大々的にプロモーションが行われました。
当時、カネボウが打ち出したメカニズムは「メラニンを合成する酵素チロシナーゼを拮抗阻害し、シミ・ソバカスを防ぐ」という画期的なものでした。しかし、日本皮膚科学会「ロドデノール含有化粧品等安全性検討特別委員会」などの医学的調査によって、現場で起きていた真の病態が明らかになります。
ロドデノールはチロシナーゼの働きを単に抑えるだけでなく、基質(反応物)として取り込まれることで強い細胞毒性を持つ代謝産物(キノン体等)を生成。これがメラニンを作り出す細胞「メラノサイト」そのものを死滅・機能停止させていたのです。その結果、肌の色素が局所的に消失し、顔や首、手に境界がはっきりした白抜け(白斑様症状)が生じる事態となりました。
さらに問題を深刻化させたのが、同社の初期対応の遅れです。皮膚科医や販売現場の美容部員から「肌がまだらに白くなった」という異変の報告が上がっていたにもかかわらず、社内の安全管理部門は「アレルギーや皮膚疾患による偶発的なもの」と捉え、厚生労働省への報告や製品回収を約1年間にわたり見送っていました。この企業ガバナンスの機能不全が、被害を約2万人規模へと拡大させた根本原因と指摘されています。