日本各地の豪雪地帯では古くから、「カマキリが高い位置に卵を産んだ年の冬は大雪になり、低い位置なら暖冬・小雪になる」という民間伝承が存在します。カマキリが冬の積雪深を予知し、雪に埋もれて窒息死するのを避けるために雪面より高い位置を選んで産卵するという説です。
この伝承はテレビ番組や一部の書籍で取り上げられ、広く信じられてきましたが、弘前大学名誉教授の安藤喜一氏をはじめとする昆虫学者グループによる十数年におよぶ大規模なフィールドワークにより、生物学的な根拠はないことが実証されています。調査の結果、同一地域・同一年度であっても地上10cmの草むらから2mを超える高木まで様々な高さに産卵されており、豪雪となった年でも雪に埋もれる卵鞘が多数確認されました。
実際の産卵高度を決定づけているのは、長期的な気象予知能力ではなく、産卵当日の気候条件(風の強さや気温)、メス個体の体力、そして天敵から身を隠せる頑丈な足場の有無です。カマキリの卵鞘は極めて高い耐水性と耐凍結性を備えており、たとえ数ヶ月間雪の下に埋没しても内部の卵が死滅することはありません。雪国伝説は、自然の厳しさと共生してきた先人たちの観察眼とロマンが生んだ風情ある言い伝えと捉えるのが適切です。