歌舞伎関係者や歌舞伎座の古参スタッフの証言を集約すると、波野知佐氏という人物に対する評価は「極めて謙虚でありながら、いざという時の胆力は並の役者以上」という一点で一致します。特に夫・吉右衛門丈が2021年3月に心臓発作で倒れ、同年11月に逝去するまでの闘病期間における立ち居振る舞いは、今なお劇壇の語り草となっています。
歌舞伎の興行中、吉右衛門丈が突如として倒れた際、知佐氏は動転する周囲を制し、冷静に医療チームへの連絡と松竹幹部への状況報告を差配しました。公の場でのコメントを最小限に留め、夫の威厳とプライバシーを最優先で守り抜いた姿は、自著やインタビューで時折見せる吉右衛門丈の「家内には頭が上がらない」という言葉の重みを如実に裏付けるものでした。
2021年12月に行われた本葬において、喪主を務めた知佐氏は取り乱すことなく、長年夫を支え続けた女性としての深い気品を漂わせて参列者を迎えました。参列した劇評家の一人は当時の様子について、「挨拶の言葉一つひとつに、当代屈指の名人を支えきった自負と、観客への無上の感謝が込められており、劇場の客席全体が知佐夫人の静かな強さに圧倒されていた」と述懐しています。
SNS上でも、命日や追善興行のたびに「吉右衛門さんの舞台を陰で支えた知佐夫人の功績は計り知れない」「丑之助くんの堂々とした立ち姿を見るたび、お祖母様である知佐さんの教育の賜物だと感じる」といった、歌舞伎ファンからの敬意に満ちたポストが継続的に投稿されています。