お尻への注射が慎重に見直されてきた最大の理由は、単なる痛みだけではない。針先が深く入りすぎたり位置が数センチずれたりすることで生じる「坐骨神経麻痺」という重篤な医療事故が過去に報告されてきたからだ。神経を直接傷つける、あるいは薬剤の毒性によって神経線維が変性を起こすと、足の麻痺や歩行困難、激しい神経痛が長期に残る恐れがある。
厚生労働省や日本看護協会も、筋肉内注射における事故防止策や手技手順の改訂を重ねて注意喚起を行ってきた。かつて頻発した小児の大腿四頭筋拘縮症などの歴史的教訓を踏まえ、日本小児科学会の指針でも乳幼児への臀部注射は原則として推奨されていない。医療安全の徹底が、旧来の投与手法に抜本的なメスを入れている。