臨床の現場や患者コミュニティの記録を丹念に追跡すると、甲状腺の異変がどれほど別の疾患へカムフラージュされやすいかという過酷な実態が浮かび上がります。
40代〜50代の女性の場合、バセドウ病による発汗や動悸は「更年期のホットフラッシュ」と誤認されやすく、橋本病による無気力や倦怠感は「更年期うつ」として処理されてしまいがちです。ある40代女性患者が公のシンポジウムや手記で語った証言によると、「急激な抑うつと起き上がれないほどの疲労で心療内科に通い、抗うつ薬を1年以上服用していたが改善せず、内分泌内科で血液検査を受けたところTSHが100 μIU/mLを超えていた」という壮絶な経過も報告されています。適切な甲状腺ホルモン薬(チラーヂン)の服用開始からわずか数週間で霧が晴れるように症状が消え去ったという体験談は、決して特殊な例外ではありません。
SNSや健康相談掲示板における生の声でも、「もっと早く甲状腺の検査を知っていれば数年を棒に振らずに済んだ」「健康診断のオプションに必ず入れるべき」といった後悔と安堵の入り混じった意見が多数を占めます。不定愁訴が続くにもかかわらず精神科的アプローチで効果が見られない場合、身体内分泌のスクリーニングを挟むことは医療経済的にも個人のQOL(生活の質)の観点からも極めて合理的です。