「入れ歯接着剤を使うと骨が溶ける」という噂の背景には、口腔解剖学的なメカニズムの誤解と、臨床現場で実際に起きている深刻なトラブルが混在しています。結論から言えば、市販の安定剤に含まれる成分そのものが化学的に顎の骨(顎堤)を溶かすわけではありません。
真のリスクは、「合わなくなった入れ歯を接着剤の厚塗りで無理に使い続けること」にあります。歯肉や骨は加齢とともに痩せて形が変化します。隙間ができた入れ歯にクッション材などを詰め込んで噛み続けると、特定の骨突出部に過剰かつ偏った噛合圧が集中。その結果、生体の防御反応として骨が急速に吸収され、平らに痩せ細ってしまう事態を招きます。
さらに、過去に海外製品で問題視された「亜鉛の過剰摂取による神経障害リスク」に関しても、現在の日本国内で流通する主要製品(アース製薬の『新ポリグリップ』シリーズなど)は亜鉛不使用(無添加)が標準となっており、規定量を守る限り全身毒性の懸念は極めて低減されています。問題の本質は成分ではなく、歯科医院での裏打ち(リライン)や調整を怠る長期放置にあるのです。