穴子の天ぷらにおいて、形状の美しさと同時に味わいの純度を決定づけるのが下処理の工程です。鮮魚店やスーパーで「開き」として売られている穴子であっても、表面には特有のぬめり(ムチンおよびトリメチルアミン酸化物などの臭み成分)が残留しています。これを放置すると、生臭さが残るだけでなく、衣の密着を妨げて揚げている最中に剥がれ落ちる原因となります。
料理人の間でも実践されている最も確実な下処理の裏技が「80℃の湯通し(霜降り)」です。穴子の皮目に80℃〜85℃程度のお湯をサッとかけると、透明なぬめりが一瞬で白く凝固します。すかさず冷水にとり、包丁の背やスプーンの縁を使って、頭側から尾に向かって優しくこそぎ落とします。この一手間により、独特の泥臭さが9割以上低減され、白身の繊細な甘みが際立ちます。
水分をペーパータオルで完全に吸い取った後、絶対に省略してはならないのが打ち粉(薄力粉)の塗布です。打ち粉には以下の決定的な役割があります。
- 穴子表面の微細な残留水分を抱え込み、油ハネと衣の破裂を抑える
- 身・皮と水溶き天ぷら衣の界面張力を中和し、衣の密着率を95%以上に向上させる
- 揚げ上がりの水蒸気抜けを均一にし、衣が身から浮いて反り返るスペースを排除する
打ち粉は全体に薄くまぶしたあと、指先で叩いて「粉が白く残らない程度」まで余分を払い落とすのがプロの鉄則です。粉が厚すぎると衣がボテつき、サクサクとした軽快感が失われます。