『海がきこえる』のクライマックスである吉祥寺駅でのラストシーンは、日本アニメーション史上に残る美しい結末として語り継がれています。東京の大学に進学した拓は、JR中央線の吉祥寺駅ホームで、反対側のホームに立つ里伽子の姿を見かけます。
電車が通り過ぎ、視界が開けたときにはすでに彼女の姿はありません。しかし拓が改札へ向かって階段を降りると、そこには彼を待っていた里伽子が立っていました。夕暮れの光が差し込む構内で、里伽子の背後を電車が走り抜ける中、拓は心の中で静かに確信します。
「やっぱり、お前が好きだ」
この結末が視聴者の胸を打つのは、それが単なる「高校時代の初恋の成就」ではないからです。高知での同窓会を経て、友人たちもそれぞれに過去のわだかまりを清算し、大人としての距離感を獲得していました。里伽子自身も東京の現実と自分の弱さを受け入れ、拓もまた、かつて自分を振り回した彼女の存在がいかにかけがえのないものであったかを客観的に理解しています。
かつては相手のテリトリーに土足で踏み込み、傷つけ合っていた二人が、幾重もの時間と距離を経て、対等な一個の人間として向かい合った瞬間。駅のホームという「行き交う人々が交差する場所」での再会は、子ども時代との決別と、自立した二人の新しい関係性の始まりを象徴しているのです。