『トムとジェリー』を語る上で、長年日本の視聴者を混乱させてきた最大の疑問が「いつも白いおむつをはいている小さな灰色のネズミの名前は何か」という点です。世代や視聴した媒体によって「タフィー」と呼ぶ人と「ニブルス」と呼ぶ人に二分されますが、結論から言えば両者は同一のキャラクターです。
この二重呼称が生まれた背景には、1940年代から50年代にかけてのアメリカのメディアミックス史と出版事情が深く関わっています。原作者であるウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラが1946年に世に送り出した名作短編『捨てネズミ(The Milky Waif)』において、この赤ん坊ネズミは「ニブルス(Nibbles=少しずつかじるやつ)」という名で初登場しました。劇中でミルクを大量に欲しがり、何でもかじってしまう習性から名付けられた設定です。
一方、同時期にデル・コミックス(Dell Comics)社から刊行された公式コミック版のライセンス連載において、編集側の都合でこの子ネズミに「タフィー(Tuffy)」という名が与えられました。当時のアメリカではコミック版の読者層が急速に拡大していたため、一般的には「タフィー」の認知度が急速に高まる事態となりました。
制作スタジオ側もこの反響を無視できず、1950年代半ばのアニメーション作品から徐々に「タフィー」という呼び名を採用し始めます。日本国内のテレビ放送では、TBS系列の昭和吹き替え版で「ニブルス」と訳されていた時期が長かったものの、現在ワーナー・ブラザース公式では国際展開の統一呼称として「タフィー」を正規名称に位置付けています。つまり、アニメーション原点の名前がニブルス、商業的・現代的な定着名がタフィーというのが歴史的な真相です。