物語最大のミステリーとして誰もが一度は首をかしげるのが、「魔法の有効期限」に関するルール違反です。妖精のおばあさん(仙女)は「夜の12時を告げる鐘が鳴り終わったら、すべての魔法が解けて元の姿に戻ってしまう」と警告していました。実際、カボチャの馬車はカボチャに、白馬はネズミに、御者はトカゲに、豪奢なドレスは煤だらけのボロ服に戻ってしまいます。
では、なぜ階段に残された片方の靴と、シンデレラの懐に残っていたもう片方の靴だけは、美しいガラスの姿のまま消え去ることがなかったのでしょうか。
ペローの原文を読み解くと、妖精が施した魔法には「2つの異なる系統」が存在していたことが分かります。
ペロー童話の文脈において、ガラスの靴は「変身させた物」ではなく、妖精がシンデレラに手渡した「現物のプレゼント」でした。元に戻るべき下地(カボチャやボロ布のような原材料)が存在しないため、魔法の時間切れというルールに縛られる筋合いがなかったのです。
1950年に公開されたディズニー長編アニメーション『シンデレラ』においても、この論理は踏襲されています。フェアリー・ゴッドマザーはドレスを魔法の杖で仕立て直したあと、最後に別枠としてガラスの靴を差し出します。ボロ服に戻ったシンデレラが、自分の足元に残された片方の靴を見つめ、「ありがとう、おばあさん」と感謝を捧げるシーンは、靴が消え去る幻影ではなく「実在する愛の証」として残されたことを視覚的に完璧に表現しています。