年金相談の現場で遺族が最も青ざめるトラブルが、日本年金機構から突然届く「過誤払い年金返還請求書」です。これが遺族年金もらいすぎの返還手続きと呼ばれる行政処分です。
配偶者が他界して60代前半から遺族厚生年金を満額受給していた人が、65歳を迎えたときに手続きを怠った場合にこの惨劇は発生します。本来、65歳になった段階で自らの老齢基礎年金と老齢厚生年金の裁定請求を行い、前述の差額支給方式へ移行させなければなりません。しかし、「案内が届いていたがよく分からず放置した」「これまで通り遺族年金が口座に振り込まれていたので問題ないと思っていた」という理由で無届けのまま満額の遺族年金を受け取り続けるケースが後を絶ちません。
公的機関の照合システムによって受給権の重複が発覚すると、過去に遡って「老齢年金を支給した扱い」に修正されます。その結果、過去数年間にわたって重複支給されていた遺族厚生年金は「法律上の根拠がないもらいすぎ(不当利得)」と認定され、一括での返還を求められます。その額が数百万円に達することも珍しくなく、シニア層の生活設計を一瞬で崩壊させる深刻なトラップとなっています。
さらに現在、年金を取り巻く環境は歴史的な大転換期を迎えています。2026年最新年金制度改正の審議過程において、社会保障審議会では遺族厚生年金の抜本的な見直しが激しい議論を呼んでいます。従来の制度は「夫=稼ぎ手、妻=専業主婦」という昭和の家族観を前提に作られており、子のない30歳未満の妻を除いて、女性は一度受給権を得れば生涯にわたって遺族厚生年金を受け取ることができました。一方、夫が妻を亡くした場合は受給要件に厳しい年齢制限が課されており、長年「男女格差」として批判されてきました。
2026年の制度見直しでは、この男女不平等を是正する名目で、配偶者を亡くした際の遺族厚生年金に「5年間の有期給付化」を順次拡大導入する方針や、第3号被保険者制度の縮小に伴う給付調整が段階的に検討されています。もはや「配偶者の年金に一生頼って暮らす」という前提そのものが制度的に解体されつつあり、自力で十分な厚生年金を構築することの重みが増しています。