猫エイズを取り巻く情報環境には、いまだに払拭しきれていない深刻なバイアスが存在します。その最たるものが人獣共通感染症としての誤認です。
結論から申し上げますと、猫エイズ人への感染リスク公式見解として、世界保健機関(WHO)、米国疾病予防管理センター(CDC)、ならびに日本の農林水産省や日本獣医師会などの公的機関は「FIVが人間に感染することは生物学的に一切あり得ない」と断定しています。FIVはネコ科動物特有の種特異的ウイルスであり、人間の免疫細胞に侵入して増殖するレセプターを持っていません。同様に、同居している犬などの他種ペットへ感染することもありません。
もう一つの重大な盲点は、多頭飼育環境における感染力への過大評価です。多くの飼い主が「同じ食器を使ったら感染するのではないか」「トイレの共有で移るのではないか」とパニックに陥りますが、FIVはエンベロープと呼ばれる脂質膜を持つウイルスであり、乾燥や熱、一般的な消毒液(アルコールや次亜塩素酸ナトリウム)に対して非常に脆弱です。空気感染や飛沫感染は起こりません。
猫エイズ同居猫への感染対策において臨床獣医師が提唱する基本原則は以下の通りです。
去勢・避妊手術を完了させ、ホルモンバランスに起因する攻撃性を排除していること。激しい流血を伴う本気の噛み合い喧嘩をしないこと。この2点が担保されている家庭環境であれば、食器や寝床、トイレを共有して生活していても、同居猫へ感染する確率は1%未満と極めて低い水準にとどまります。過剰な隔離飼育によって猫に多大な精神的ストレスを与え、かえって免疫を落としてしまう対応こそが避けるべきリスクです。