件の怪異を文学の領域へと昇華させた記念碑的作品が、夏目漱石の弟子である作家・内田百閒が1921年(大正10年)に発表した短編小説『件』です。
この作品の恐ろしさは、「怪物を見る側の視点」ではなく、「牛から産み落とされた自分自身が件であると気付く視点」で描かれている点にあります。主人公は人面牛身の姿で誕生し、周囲を取り囲む群衆から「早く予言をしろ」と無慈悲な期待を寄せられます。自分が何を予言するのか分からないまま恐怖に怯え、予言を口にすれば死ぬ運命にあることを悟る心理描写は、不条理文学の傑作として高く評価されています。
百閒が描いた「災厄の告知者としての苦悩」は、後世の漫画作品や映像作品における件の描写にも決定的な影響を与え、単なる怪談を超えた哲学的モチーフとして定着しました。