日本のエンターテインメント史において、この精神性を最も鮮やかに描いてきたのが松竹株式会社だ。同社が生み出した不朽の名作、映画『男はつらいよ』シリーズは、日本人の心の琴線に触れ続けている。主人公の車寅次郎(寅さん)は、失敗ばかりで論理的とは言えないが、他人の悲しみや孤独に対して誰よりも過敏だ。
損得を超えて他人の世話を焼き、お節介を焼く。こうしたクラシックな人情劇が今なお人々の胸を打つのは、私たちが効率とスピードの追求で失ってしまった「人間臭さ」をそこに見出すからだ。優れたヒューマンドラマは、いつの時代も人間が真に欲しているのは完璧な正解ではなく、温かな肯定感であることを教えてくれる。