野口夫妻殺人事件の法的な真犯人は、夫を撲殺したのちに自死した野口奈央子でした。しかし、現場にいた西崎真人が服役したことで、世間的には「不倫のもつれによる西崎の犯行」として片付けられます。そして、この悲劇の引き金を引いてしまったのは、希美への純粋な独占欲から部屋のドアチェーンを掛けた安藤望の些細な行動でした。
希美は安藤がチェーンを掛けたことに気づきながらも、彼の輝かしい将来を汚さないために真実を封印しました。「罪の共有」を求めた西崎に対し、希美は安藤には「何も知らせず罪から遠ざけること」を選びました。ここに本作が描く愛の二面性が浮き彫りになります。
湊かなえの原作小説とドラマ版には、構造上の大きな違いが存在します。原作は各登場人物が一人称で過去を語る独白形式で進みますが、ドラマ版では三浦友和演じる元警察官・高野茂というオリジナルキャラクターが狂言回しとして配置されました。
高野が事件から10年後の2014年に、出所した西崎や病に侵された希美を訪ね歩く構成を取ることで、過去(2000年の青景島高校時代、2004年の東京のアパート「野ばら荘」、2004年クリスマスイブの事件)と現在が美しく交錯する極上のサスペンスドラマへと昇華されました。
さらに、映像美と劇伴音楽(横山克)、そして各話のクライマックスで胸を締め付けるように流れる家入レオの主題歌「Silly」の存在が、視聴者の感情を極限まで揺さぶりました。登場人物たちの孤独と切望を代弁した歌詞と旋律は、ドラマの世界観と完璧な調和を見せています。