ウェブ上の言説で頻繁に見受けられるのが、「中村獅童は血統のない一般家庭から這い上がった苦労人である」という誤解です。この言説は半分正しく、半分は誤りです。
血統の観点から見れば、獅童は三代目中村時蔵の実孫であり、昭和の映画界の頂点に君臨した萬屋錦之介の甥です。つまり血筋としては完全なる梨園の名門エリートに位置します。
しかし、興行構造の観点から見ると現実は過酷でした。歌舞伎の世界では「父親が現役の幹部俳優として座頭(劇団トップ)を張っているか」が御曹司たちの役付きを直接左右します。父が廃業していた獅童は、名門の血を引きながらも劇場の序列としては「部屋子・名題下」と同等の冷遇を味わいました。これが「血統は名門、立場は外様」と呼ばれる所以です。
映画『ピンポン』での大ブレイクやテレビドラマでの実績を逆輸入する形で歌舞伎座の主役に返り咲いたプロセスは、まさに伝統芸能における稀有な下剋上劇でした。