低体温症の臨床経過において、最も警戒すべきは「震え(シバリング)」の変化です。寒さを感じたとき、人体は筋肉を小刻みに収縮させて熱を作り出そうとします。これが低体温症の初期症状として現れる激しい震えです。しかし、深部体温が32度を下回ると、生体はエネルギーを使い果たし、震えることすらできなくなります。
家族や周囲の人間が「震えがおさまったから落ち着いたのだろう」と誤認することが、手遅れを招く最大の落とし穴です。震えが消失した状態は、代償機構が破綻し、不可逆的な多臓器不全へ向かう中等度以上の深刻なサインに他なりません。
中等度以上に進行すると、脳の血流量低下と代謝低下によって低体温症に伴う意識障害が生じます。話しかけても辻褄の合わない返答しかできない、周囲の状況が認識できない、あるいは異常行動(極寒の中で自ら服を脱ぎ捨てる「矛盾脱衣」)が見られる場合は、すでに生命維持の限界点に達しています。