メディアで報じられる環太平洋造山帯は、常に「破壊的な地震と噴火をもたらす厄災の根源」として描かれがちです。ネット上でも「日本列島は地質学的なハズレくじを引いた」といった悲観論が散見されます。しかし、これは地質学の全体像を見落とした一面的な誤解です。
第一の誤解は、「火山活動が活発化すると直ちに巨大地震が連動する」という単純化された連動論です。地下のマグマの挙動とプレート境界の歪み蓄積は力学的に相互作用することはありますが、ひとつの噴火が即座に大震災を誘発するようなドミノ倒しが常に起きるわけではありません。気象庁の火山監視データでも、局所的なマグマの移動と広域テクトニクスは厳密に区別して解析されています。
第二の盲点は、この荒れ狂う造山運動こそが、人類文明に不可欠な莫大な鉱物資源の集積地を作り出したという事実です。マグマ活動に伴う高温の熱水が地殻内の金属成分を溶かし、冷却される過程で岩石の割れ目に沈殿させたものが「熱水鉱床」です。南米チリのエスコンディーダ銅鉱山をはじめ、環太平洋造山帯には世界市場を支配する巨大な銅・金・銀鉱床が集中しています。
日本列島も例外ではありません。かつて「黄金の島ジパング」と称された佐渡金山や、かつて世界の銅産出のトップクラスを占めた足尾銅山・別子銅山、さらには世界屈指の高品位を誇る鹿児島県の菱刈鉱山(現在も年間数トンの金を産出)は、すべて環太平洋造山帯の火山活動が生み出した遺産です。
さらに、全国に2万7,000本以上ある温泉源泉、火山灰が何万年もかけて風化して生まれた肥沃な黒ボク土(農業基盤)、急峻な地形がもたらす豊富な水力エネルギー資源など、日本人が享受している国土の豊かさは、すべてこの激しい造山運動の対価として地球から与えられたものです。