シダ植物の真骨頂は、その複雑怪奇でありながら完璧に計算された「世代交代」のドラマにある。これを専門用語でシダ植物の生活環と呼ぶ。
成体となったシダの葉の裏側を観察すると、幾何学的に並んだ茶色い粉のような斑点が密集している。これは病気や虫ではなく、胞子のう群(ソーラス)と呼ばれる器官だ。カプセルのような胞子のうが乾燥によって弾け飛ぶと、内部から直径わずか数十マイクロメートルの微細な胞子が無数に空中に放出される。
地表に舞い降りた胞子は、湿り気のある土壌で発芽する。しかし、そこから直接シダの葉が伸びるわけではない。胞子が細胞分裂を繰り返して形成されるのは、直径数ミリメートルほどのハート形をした極小の緑色組織、すなわち前葉体(配偶体)である。
この小さな前葉体の裏側には、卵を作る「造卵器」と精子を作る「造精器」が形成される。雨露や霧によって前葉体の表面にわずかな水膜ができると、造精器から多数の鞭毛(べんもう)を持った微小な精子が水中へ泳ぎ出し、卵を目指して自力で移動する。これが前葉体と受精の瞬間だ。受精卵が細胞分裂を開始すると、前葉体を栄養源としながら新しい芽と根を伸ばし、やがて私たちがよく知る大型のシダ植物(胞子体)へと成長していく。
「胞子で飛散して距離を稼ぎ、水滴の中で精子を泳がせて子孫を残す」。太古の水生生物としての記憶を頑なに守りながら陸上で生き延びる姿は、まさに植物界の両生類と呼ぶにふさわしい。