「コウノトリが赤ちゃんを運んでくる」という言説は、日本古来の土着信仰と西洋の伝承が明治期以降に融合して生まれたハイブリッドな物語です。元来、ヨーロッパにおいてこの伝説の主役を務めていたのは、人家の屋根や煙突に好んで営巣するシュバシコウ(赤嘴鸛)でした。北欧神話において愛と多産の女神フルダの使いとされたことや、アンデルセン童話『コウノトリ』の普及によって、「煙突から赤子を届ける鳥」というイメージが世界中に定着しました。
この物語が近代化の過程で日本へ移入された際、姿形が極めて酷似していた東アジア固有種のコウノトリ(Ciconia boyciana)と重ね合わされました。日本国内でも、古来コウノトリはツルと同様に「鶴は千年」の吉祥画にしばしば描かれ、松の巨木に巨大な皿状の巣を構える姿から「繁栄と長寿の神使」として崇められていた土壌があります。外来の民俗伝承と在来の吉祥思想が自然な形で結びつき、「幸の鳥=子宝をもたらす鳥」という盤石のパブリックイメージが形成されました。
生物学的な見地からも、コウノトリは一度ペアを形成すると原則として生涯添い遂げ、春先に産卵した卵をオスとメスが交代で約1か月間温め続けます。孵化後も約2か月にわたって献身的に給餌を行い、幼鳥が巣立つまで手厚く守り抜く姿は、古来の農村社会において「理想の夫婦愛」「家族の絆」の象徴として映りました。人間が本能的に希求する家庭の円満と新しい生命の誕生が、彼らのリアルな生態に投影されたことが、幸の鳥と呼ばれる決定的な理由です。