これまで人間心理の機微や家族の多様なあり方を繊細に描き出してきた是枝裕和監督。しかし、本作『失ったもの』で提示されるのは、従来の静謐なヒューマンドラマの枠組みを大きく突き破るアプローチだ。物語の骨組みには、緻密に計算されたサスペンス・ミステリーの要素が太い軸として組み込まれている。
登場人物たちが抱える過去の秘密と、複雑に絡み合う人間模様。観客は一瞬の台詞や視線の交わし合いから、手繰り寄せるように真相へと迫ることになる。深い人間描写と緊張感あふれるミステリー構造の融合は、是枝映画の新境地として大きな波紋を呼ぶに違いない。