近年、ストリートピアノやYouTubeでの配信をきっかけにブレイクする演奏家が増加したことで、一部のネットユーザーの間では「山中惇史もそうしたネット発の技巧派ピアニストの一人ではないか」という誤った見立てが散見されます。しかし、これは決定的な誤解です。
彼の本質は、どこまでも厳格なクラシックのアカデミズムの中で培われた「作曲家としての構築力」にあります。単に難曲を速く弾く、派手に弾くといったフィジカルな技巧の消費ではなく、バッハから連綿と続く西洋音楽の文脈を完璧に理解した上で、響きをコントロールしている点に最大の独自性があります。
たとえば彼が手掛けるポップスや映画音楽の編曲を注意深く聴くと、内声(メロディとベースの間の音域)の動きや転調のプロセスに、ラヴェルやプーランクを彷彿とさせる高度な対位法の技法が忍ばされています。大衆に向けた親しみやすいアウトプットの裏側に、妥協のない最高峰の芸術的骨格が組み込まれていること。この「二重構造」の深さこそが、表層的なネットピアニストと彼を分かつ決定的な境界線です。