3次方程式の解の公式はなぜ高校で封印?カルダノ泥沼史と導出の全貌

3次方程式の解の公式はなぜ高校で封印?カルダノ泥沼史と導出の全貌

3次方程式の解の公式はなぜ高校で封印?カルダノ泥沼史と導出の全貌に関する知りたいポイントをわかりやすくまとめました。要点を確実におさえることができます。

カルダノの公式の導出において、数学者たちを最も震撼させたのが3次方程式の実数解と虚数解の振る舞い、そして「還元不能」と呼ばれる奇怪な現象でした。2次方程式と同様に、3次方程式 $y^3 + py + q = 0$ にも解の性質を決定づける判別式が存在します。

ルートの中身に着目し、判別式を $\Delta = - \left( 4p^3 + 27q^2 \right)$、あるいは簡略形として $D = \left(\frac{q}{2}\right)^2 + \left(\frac{p}{3}\right)^3$ と定義したとき、解の分岐は次のように明確に分かれます。

  • $D > 0$ の場合:ルートの中身が正の実数となるため、1つの実数解と2つの共役な複素数解(虚数解)を持ちます。
  • $D = 0$ の場合:重解を持ち、すべての解が実数となります。
  • $D < 0$ の場合:3つの異なる実数解を持ちます。

ここで常識を覆す異常事態が発生します。グラフを描けば明らかなように、3次関数が $x$ 軸と異なる3点で交わり、「3つとも紛れもない実数解」である状況こそが、$D < 0$(ルートの中がマイナス)になるのです。

当時の数学界において、自乗してマイナスになる「負の数の平方根(虚数)」は、存在してはならない悪魔の数、実体のない幽霊とみなされていました。カルダノ自身も『アルス・マグナ』の中で、虚数の計算を「精神的拷問に等しい無意味な作業」と吐き捨てています。しかし、明らかな実数解が存在する方程式(例えば $x^3 - 15x - 4 = 0$、解の1つは明らかに $x = 4$)を公式に代入すると、どうしても $\sqrt{-121}$ のような虚数単位が現れてしまいます。

実数を求める計算の途中で、どうしても「存在しないはずの虚数の世界」を一度通過しなければ、実数の世界へ帰還することができない。この状態をラテン語で還元不能(casus irreducibilis)と呼びます。後にラファエル・ボンベリが複素数の加減乗除のルールを整備し、ルネ・デカルトやレオンハルト・オイラーらが概念を確立していく契機となったのは、他ならぬこの3次方程式の解の公式のバグを乗り越えるためでした。「実数を厳密に証明するために虚数が必要不可欠である」というパラドックスは、現代数学が複素平面へと飛躍する最大の転換点となったのです。

山下 哲也
著者

山下 哲也

デジタルガジェットとスマート家電の検証記事を多数執筆。失敗しないモノ選びを提案します。