夜間の救急外来や各種育児コミュニティの相談記録を検証すると、赤ちゃんの呼吸の荒さに取り乱し、救急車を呼ぶべきか深夜に葛藤する保護者の苦悩が生々しく浮かび上がってきます。
大手育児Q&Aプラットフォームに寄せられた生後1ヶ月の母乳育児中の母親の手記には、当時の張り詰めた心理状態が赤裸々に綴られています。
「夜中の2時、授乳を終えてベビーベッドに寝かせた瞬間から、胸が壊れそうな勢いでハアハアと波打っていました。息が止まる瞬間もあり、スマホで検索すれば『乳幼児突然死症候群』や『重症肺炎』といった不穏な文字ばかりが並び、怖くて一睡もできずに赤ちゃんの鼻先に指をあて続けて朝を迎えました。翌朝小児科に駆け込むと、先生は胸の音を聴いて『周期性呼吸ですね。お母さん、よく頑張って観察したけれど、これは赤ちゃんが育つ過程の自然な呼吸ですよ』と穏やかに微笑んでくれました。張り詰めていた涙が一気に溢れ出しました」(育児コミュニティ投稿より抜粋)
都内の小児総合医療センターに勤務する救急指定医は、深夜の小児救急外来における実態についてこう証言します。
「当直帯に『赤ちゃんが過呼吸みたいで苦しそう』と駆け込まれる保護者の約7割は、鼻づまりによる呼吸音の増大や、正常範囲の周期性呼吸、啼泣後の興奮状態など、生理的な現象であることが大半です。しかし、我々医療従事者が決して『考えすぎですよ』と一蹴しないのは、残りの3割の中に、RSウイルスによる重症細気管支炎や心不全、敗血症といった本物の急性呼吸不全が確実に紛れ込んでいるからです。受診を迷ったときは、周囲に遠慮する必要はありません。ただ、焦って闇雲に病院へ飛び込む前に、赤ちゃんの服をめくって胸の動きを動画に収めてきていただけると、診察室での診断スピードは劇的に上がります」
育児ストレスや睡眠不足が限界に達している深夜、静寂の中で強調される我が子の呼吸音は、親の不安バイアスによって何倍にも増幅されます。現場の小児科医が口を揃えるのは、親の不安そのものは愛情の裏返しであると同時に、客観的なトリアージ基準という「防壁」を持つことの大切さです。