冬になると官公庁やメディアから一斉に発信される「暖房は20度を目安に」というスローガン。しかし、空調エンジニアリングの現場を取材すると、このフレーズが家庭内に深刻な誤解を招いている実態が浮き彫りになります。環境省推奨温度20度の真相とは、エアコンのリモコンに表示される設定値を20度に固定することではなく、人間が活動する居室内の実測「室温」を20度に保つことを意味しています。
この室温と設定温度の違いを正しく認識していない家庭では、二重の悲劇が起こりがちです。気密性や断熱性が十分でない木造住宅や古いマンションでは、リモコンを「20度」に設定しても、外気の影響や冷気の流入により、大人が座る床上1メートルの実室温が16〜17度までしか上がらないケースが珍しくありません。住人は寒さに震えながら「節電しているのに暖かくならない」と不満を募らせ、耐えかねて一気にリモコンを27度や28度まで押し上げます。これが電力消費のスパイクを招く最大の要因です。
エアコン本体の温度センサーは、通常、壁の高い位置(天井付近)に設置された室内機内部に備わっています。暖かい空気は軽いため天井付近に滞留し、冷たい空気は床付近に沈むという熱対流の性質上、天井付近が20度に達していても足元は15度以下という温度ムラが日常的に発生します。機器側のセンサーが「設定温度に到達した」と誤認して暖房運転を弱めてしまい、結果として住人は「エアコン暖房が効かない」と感じてしまうのです。まずは冬のエアコン適切な温度を考える上で、「リモコンの液晶画面」ではなく「生活動線に置いた温度計の数値」を基準にする発想の転換が求められます。