日本列島を見渡すと、関東標準のフレーズとは異なる掛け声が無数に存在します。代表格が関西の「坊さんが屁をこいた」のルール比較です。関西圏ではリズムが「ぼ・う・さ・ん・が・へ・を・こ・い・た」の厳格な10文字で刻まれ、関東の「だるまさん」に比べてテンポが速く、リズミカルに推進する傾向が見られます。仏教文化が身近であり、ユーモアを重んじる上方文化ならではの言語変容といえます。
さらに「だるまさんがころんだ」の地方別の掛け声一覧を調査すると、東北地方では「車のとんてんかん」や「くるまのとうさん屁をこいた」、愛知・東海地方では「インディアンのふんどし」、九州地方の一部では地域固有の情景描写を織り交ぜたフレーズが口伝で残されてきました。いずれも「文字数が約10音前後」「最後の一音で緊張感が一気に跳ね上がる」という共通の音響心理学的ルールを持っています。
視点を世界へ広げると、「だるまさんがころんだ」の英語での言い方として代表的なのが「Red light, Green light(赤信号、青信号)」です。鬼が「Green light」で進み「Red light」で止まる極めてシンプルな交通信号モデルですが、イギリスでは「What's the time, Mr. Wolf?(オオカミさん、今何時?)」という捕食者をモチーフにしたスリリングな変種も親しまれています。
東アジア圏では、韓国の「ムグンファ コチ ピオッスムニダ(ムクゲの花が咲きました)」が著名です。世界的大ヒットを記録したNetflixドラマ『イカゲーム』で「だるまさんがころんだ」の韓国版が巨大ロボット人形とともに死のデスゲームとして描かれた衝撃は記憶に新しいところです。一方で、三池崇史監督の映画『神さまの言うとおり』のだるまが教室の生徒たちを無慈悲に粛清していくオープニングシーンとの類似性がネット上で活発に議論されるなど、無邪気な子どもの遊びが持つ原初的な不条理と恐怖は、国境を越えてエンターテインメントの強力な起爆剤となっています。