ドラマ『ナースのお仕事』を語る上で絶対に外せないのが、ナースステーションや病棟の廊下に響き渡る尾崎翔子の怒声「あさくらー!」です。このフレーズは流行語となり、コメディドラマにおける師弟関係の代名詞となりましたが、当初の台本にはあの独特のイントネーションや絶叫の指示が細かく書かれていたわけではありませんでした。
当時の制作関係者や松下由樹本人が回想特番などで明かした証言によると、ト書きにはシンプルに「朝倉を怒鳴る尾崎」と書かれている程度でした。しかし、現場で観月ありさ演じる朝倉いずみの常識外れなドジっぷりと天真爛漫なリアクションを目の当たりにした松下は、本気で呆れ、本気で心配し、感情を極限まで爆発させる演技プランを選択しました。その結果、腹の底から絞り出すような「あさくらー!」のシャウトが自然発生的に定着していったのです。
シリアスな愛憎劇『想い出にかわるまで』やサスペンス『振り返れば奴がいる』、都会派ドラマの傑作『29歳のクリスマス』など、松下由樹の若い頃の代表作は繊細で重厚な演技が高く評価されていました。その彼女が感情をストレートに解放する尾崎先輩というキャラクターを完璧に体現したことは、女優としての新境地を切り拓くと同時に、作品全体を牽引する強固な推進力となりました。