噛まれた直後、自宅にある茶色いイソジンやマキロンなどの市販消毒液をたっぷり塗りたくってはいないでしょうか。現代の創傷医学において、これは最も避けるべき危険な誤認処置と位置づけられています。
消毒液不要の理由は極めて論理的です。消毒液は細菌を殺菌する力を持っていますが、同時に傷を修復しようとする人間の正常な細胞組織や白血球にも深刻なダメージを与え、組織壊死(えし)を促進させます。さらに、狭く深い咬傷の内部に潜む嫌気性菌には消毒液の有効成分が十分に届かず、むしろ破壊された壊死組織が破傷風菌やパスツレラ菌の格好の増殖培地になってしまうためです。
受傷直後に命を守る唯一にして最大の防衛策は、徹底した応急処置流水洗浄です。
- ステップ1(即座に洗浄):受傷後1秒でも早く水道の蛇口を全開にし、勢いのある流水(ぬるま湯または水道水)で傷口を直接洗い流します。
- ステップ2(15分間の格闘):表面をサッと流すだけでは意味がありません。傷口の周囲を指で軽く圧迫し、溜まった汚血や唾液を外へ絞り出しながら、最低15分間流し続けます。
- ステップ3(被覆の注意):洗浄後は清潔なガーゼやタオルで軽く押さえます。キズパワーパッドなどの密閉型ハイドロコロイド絆創膏は、傷口を無酸素状態にして破傷風菌の増殖を助長するため、自己判断で絶対に貼ってはいけません。