クレマチスの丘が急速な縮小と休館に追い込まれた最大のトリガーは、運営会社とその強力なスポンサーであったスルガ銀行創業家との関係性にあります。クレマチスの丘は、スルガ銀行の元頭取・岡野喜一郎氏が設立したベルナール・ビュフェ美術館を起点とし、そのファミリー企業群の文化・メセナ事業として発展してきました。広大な敷地に美術館、庭園、高級レストランを配した贅沢な空間設計は、潤沢な企業支援があってこそ成立するモデルでした。
歯車が大きく狂い始めたのは2018年に発覚したスルガ銀行の不正融資問題です。シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐる大規模な不正が社会問題化し、金融庁から厳しい業務改善命令を受けた同行は、創業家支配からの完全な脱却とガバナンス刷新を断行しました。この過程で、銀行から創業家関連企業や文化事業へ流れていた不透明な資金パイプラインが厳格に遮断され、運営母体は一気に財務的な後ろ盾を失う事態に直面したのです。
追い打ちをかけたのが2020年春からの新型コロナウイルス感染拡大でした。県外からの観光客やインバウンドが激減し、入館料収入と高価格帯レストランの売上は蒸発。企業支援の打ち切りと本業の減収が重なり、年間数千万円から1億円規模に及ぶ庭園・展示施設の維持管理費を民間単独で支えることは限界に達していました。
2022年、運営側は起死回生の一手として、ヴァンジ彫刻庭園美術館のコレクション(約300点)および建物・土地を地元自治体へ無償譲渡する公立化案を静岡県や長泉町に打診しました。しかし、自治体側にとっても重いランニングコストや将来の大規模修繕費は財政上の巨大なリスクでした。長泉町議会や住民の間で賛否が割れ、最終的に公費負担による引き受けは断念。公的支援の道が絶たれたことで、2023年3月末をもってヴァンジ彫刻庭園美術館は一般公開終了へと追い込まれました。