市場や釣り場でコノシロが不遇な扱いを受ける背景には、味そのものよりも「調理難易度の高さ」に起因する3つの明確な要因が存在します。ネット掲示板やSNSで囁かれる「まずい」という悪評の根源を客観的に分解します。
第1の要因は、身の内部に網の目のように張り巡らされたY字型の筋間骨(小骨)です。アジやイワシのように骨抜きで1本ずつ抜くことが構造上不可能であり、無処理のまま加熱したり刺身にしたりすると、噛むたびに鋭い骨が舌や喉に障壁として立ちはだかります。
第2の要因は、不飽和脂肪酸の急激な酸化による特有の生臭さです。コノシロは成長とともに脂質含有量が跳ね上がりますが、内臓や血合いの処理が遅れると、脂が空気に触れてトリメチルアミンなどの悪臭物質へと変質します。江戸時代の俗説で「子の代(身代わり)として焼いた魚の臭いが人肉の焦げる臭いに似ていた」という伝説が生まれたほど、内臓を残したまま丸焼きにした際の臭気は強烈です。
第3の要因は、皮下に潜む寄生虫リスクへの警戒心です。これらのハードルが重なり、「手間がかかる割に報われない魚」というレッテルが定着しました。
ここで整理しておきたいのが、寿司種として名高いコハダとの違いです。生物学的には同一の魚(ニシン目ニシン科)であり、成長段階によって呼称が変わる出世魚に分類されます。
- シンコ(新子):体長4〜5cm前後。初夏に登場し、1kgあたり数万円の高値がつく寿司界の至宝。骨が極めて柔らかくそのまま食せる。
- コハダ(小鰭):体長7〜10cm前後。寿司屋の看板として通年重宝される。骨は細く、酢締めで骨ごと柔らかく仕立てられる。
- ナカズミ:体長12〜13cm前後。脂が乗り始めるが、骨の硬化が始まる中間段階。
- コノシロ:体長15cm〜30cm前後。脂の乗りは最高潮に達するが、骨が完全に石灰化して硬くなり、価格はキロ数百円単位まで急落する。
成長するにつれて脂の旨味は格段に濃厚になるにもかかわらず、骨の硬さゆえに市場価値が暴落するという歪みが生じています。つまり、骨と脂のコントロールさえ成功すれば、最も脂が乗った極上のコハダを驚異的な低コストで味わえる計算になります。