丁寧に行ったつもりでも肉がミンチ状に裂けてしまう現象、その最大の原因は「筋(腱)と筋肉組織の結合度合い」および「引っ張る力のベクトル」にあります。鶏ささみは解剖学的には「小胸筋」と呼ばれる部位で、羽を羽ばたかせるために絶えず連動する強靭な腱が中央を縦断しています。この腱は周囲の繊細な筋繊維とコラーゲン質で強固に結合しているため、単純に筋の先端をつまんで真上や手前へ無理に引き抜こうとすると、筋繊維が耐えきれずに肉ごと引きちぎれてしまうのです。
取材に応じた食肉加工の専門技術者によると、「ささみの身は他の部位に比べて繊維が非常に細かくデリケート。ささみ筋取り失敗しないコツの真髄は、肉を引っ張るのではなく、筋を固定して『肉を押し出す』力の逃がし方にある」と指摘されています。多くの人が「筋を引き抜こう」と力を込めるあまり、筋の表面に肉を巻き込んで削ぎ落としてしまっているのが実態です。
さらに見落とされがちなのが肉の水分による「滑り」です。筋の先端はゼラチン質と水分で滑りやすく、指先でつまもうとしても滑って力が分散し、結果として余計な握力で身を潰してしまいます。この物理的な摩擦の不足と引く方向の誤解が重なることこそが、身が崩れる決定的なメカニズムです。