ビジネスパーソンが最も頭を悩ませるのが、「ありがとうございます」と「ありがとうございました」の時制の使い分けです。語尾が過去形になるだけで、相手に届く心理的な距離感と関係性のニュアンスは劇的に変化します。
日本語の時制論において、過去形「〜でした」「〜ました」は対象となる行為や関係の「完了・過去化・心理的分断」を意識させます。対して現在形「〜ます」は、今この瞬間の感情だけでなく、今後へと続く「関係の継続性・未来への志向」を包含します。
たとえば、数ヶ月に及ぶ共同プロジェクトが無事に幕を閉じた打ち上げの場や、退職・異動の挨拶において「これまでのご指導、誠にありがとうございました」と述べるのは自然です。特定の出来事が完全に終了した事実を区切る意味合いを持つからです。
一方で、商談直後の御礼メールや定期的なやり取りをしている上司に対して「本日はありがとうございました」とだけ記してしまうと、無意識のうちに「本日の件はこれにて完了」「あなたとの接点はここで一区切り」といった心理的シャッターを下ろすニュアンスを与えかねません。今後も取引や指導が継続する相手には、過去の行為に感謝しつつも「本日は貴重なお時間をいただき、心より感謝申し上げます」といった現在形の構文を選択するのが、関係性を前進させる一流の実践知です。