現地を訪れる千と千尋の神隠し聖地巡礼の旅人にとって、河鹿橋と並んで見逃せないのが老舗旅館「横手館」の存在です。石段街の途中に佇むこの宿は、大正9年に建てられた本館が国の登録有形文化財に指定されています。
釘を一本も使わずに組み上げられたとされる本館は、総檜造りの4階建て。障子越しに漏れる柔らかな白熱灯の明かり、磨き上げられた廊下、複雑に交差する階段の構造は、まさに千尋が駆け回った油屋の内部空間を想起させます。
取材班が実際に石段街を歩くと、夕暮れ時から夜間にかけての景観の変化に圧倒されます。夕闇が迫る頃、石段街の両脇に並ぶ宿や土産物屋に灯りがともり、茶褐色の「黄金の湯」が流れる小窓から湯気が立ち上ります。この瞬間、現実の観光地という感覚が薄れ、まるで神々の世界へ迷い込んだかのようなノスタルジーに包まれます。この強烈な視覚体験こそが、モデル旅館の真相を超えて旅人を惹きつける伊香保温泉の真価と言えます。