レストランの仕込み現場において、すね肉をそのまま煮込み鍋へ投入することはまずありません。丁寧な下処理を挟むか否かで、完成時の雑味とコクの深さに劇的な差が生まれます。
まず最初に行うべき工程が、失敗しない牛すね肉の下茹で方法(フランス料理でいうブランシール)です。大きめにカットしたすね肉をたっぷりの水と少量の香味野菜(ネギの青い部分やショウガの薄切り)とともに鍋に入れ、中火にかけます。沸騰直前に大量のアクと余分な脂が浮き上がってくるため、煮立ったら弱火で3〜5分間ほど茹で、ザルにあけてぬるま湯で肉の表面をきれいに洗い流します。このワンステップで、独特の血生臭さや余分な酸化油脂分が完璧に除去されます。
下茹でを終えて水気をしっかりと拭き取った後、欠かせないのが牛すね肉の臭み抜きと焼き色を付ける焼き付け作業です。フライパンに少量の油を強火で熱し、肉の表面全体にしっかりと濃いめの焼き色(メイラード反応)をつけます。
「焼き色をつけて肉汁を閉じ込める」と説明されがちですが、現代の食品科学において表面を焼いても肉汁の流出を完全に防ぐことはできないと実証されています。ここでの真の目的は、肉のタンパク質と糖が熱反応を起こして生まれる香ばしい風味物質と、フライパンの底にこびりつく旨味の結晶(フォンドキュイソン)を作り出すことにあります。この焦げ目を少量の水分や赤ワインでこそぎ落として煮込み鍋に加えることが、とろとろにする下処理のコツであり、奥深いソースの土台を築く鍵となります。