物語序盤、ヒルルクは町の人々から「やぶ医者」「危険人物」として蛇蝎のごとく嫌われていました。治療と称して患者に怪しげな薬品を投与しては症状を悪化させ、法外な治療費を要求して逃げ回る姿は、一見すると救いようのないペテン師そのものです。
彼がこれほどまでに稚拙な医療行為を行っていた理由は、本職の医者ではなく、かつて西の国で大泥棒をしていた過去にあります。不治の病に侵されていた彼は、ある山で偶然目にした「鮮やかに咲き誇る満開の桜」の美しさに心を打たれ、奇跡的に病が完治した体験を持ちます。「この世に治せない病気などない」「病んだ心を救えば体も治る」と確信した彼は、医者を志して極寒の雪国・ドラム王国へ戻ってきたのでした。
そんな彼の前に現れたのが、青い鼻を持つゆえに群れから追放され、人間からも「化け物」として銃撃されたトニートニー・チョッパーでした。ヒルルクは傷だらけのトナカイを保護して怪我を治し、服を着せ、自らの帽子を与えて息子のように愛しました。人間不信だったチョッパーにとって、ヒルルクは初めて自分を一人の存在として受け入れてくれた唯一無二の家族となったのです。
しかし、二人の平穏な日々に過酷な運命が訪れます。ヒルルクの不治の病が再発し、余命が残り10日を切ったことを知ったチョッパーは、図鑑で目にしたドクロマークのキノコ「アミウダケ」を万能薬だと信じ込みます。ヒルルクがかつて「海賊のドクロは不可能を可能にする信念の象徴だ」と教えていたためです。
全身傷だらけになり、角を折られながら持ち帰ったチョッパーの想いを受け止めたヒルルクは、それが一口で命を奪う猛毒キノコであると知りながら、満面の笑みで煮込んだスープを最後の一滴まで飲み干しました。「お前の気持ちが嬉しくてたまらねェんだ」という愛情の深さは、医学的な正しさを超越した親子の絆を証明しています。
その後、国王ワポルが「国の誇る20人の名医(イシ20)が全員倒れた」という虚偽の触れ役を出した際、ヒルルクは罠だと疑いながらも「もし本当なら国中の民が困る」とドラム城へ急行しました。城に駆けつけ、医師たちが病気ではなく無傷で並んでいる姿を見たヒルルクは、安堵の涙を流します。
「……よかった…誰も病気じゃねェのか……。おれァてっきり…国中の一大事かと……何だ…罠か……。よかった…おれが騙されただけか……」
銃口に囲まれながら、自ら爆薬を飲んで爆死を遂げた真相は、「愛する息子(チョッパー)が採ってきた毒キノコで命を落としたのではない」「卑劣な国王の処刑によって殺されたのでもない」という誇りを貫き、チョッパーに一生涯の罪悪感を背負わせないための配慮でした。