本作の圧倒的な魅力、それは視覚的な美しさと不気味さの同居にある。近年、若年層を中心に再評価が進むレトロカルチャーだが、本作はそのブームに冷水を浴びせるかのようにダークな質感で昭和の陰影を切り取っていく。セピア色の記憶に潜む毒。蓄音機から流れるクラシック、紫煙のくゆらす純喫茶、そして重厚な木製カウンターに置かれた一杯の珈琲。
美術チームは当時の建築様式や調度品を忠実に再現するため、全国の廃業した喫茶店や近代建築を徹底捜索した。ノスタルジックな郷愁に浸る観客を、予期せぬ悪夢へと引きずり込む美術設計。画面の端々に散りばめられた狂気のアートワークは、一度観たら脳裏に焼き付いて離れない。