本作を単純な怪談やジャンプスケア中心のホラー映画として片付けるのは早計だ。物語を紐解いていくと、観客が直面するのは幽霊の脅威ではなく、人間の心理がいとも簡単に崩壊していくプロセスを描いた硬派なサイコスリラーとしての骨格である。
信じていた家族の顔が、ある日突然見知らぬ他人のように思えてしまう「カプグラ症候群」に似た恐怖。誰の目にも明らかな異変を、周囲の人間だけが頑なに認識しようとしない不条理。主人公の主観映像と客観映像が巧みに入れ替わることで、観客自身も「狂っているのは登場人物なのか、それとも見ている自分自身なのか」という迷宮へ叩き落とされる。理性がじわじわと削り取られていく心理的サスペンスの妙味が、全編にわたって息苦しいほどの緊張感を保ち続けている。