特定の国に世界遺産が突出して多い現象は、単なる偶然ではありません。最多を誇るイタリアと中国には、共通する3つの決定的なアドバンテージが存在します。
第1の理由は、「文明の十字路」としての圧倒的な歴史的・地理的蓄積です。イタリアは古代地中海世界の中心として栄え、中世から近世にかけては都市国家群が独自の芸術・建築文化を開花させました。一方の中国は五千年に及ぶ多民族国家の興亡史を持ち、黄河・長江流域を中心に多様な文明の痕跡が国土の至る所に刻まれています。
第2の理由は、国家戦略としての遺産保護と外交力です。世界遺産への登録には、ユネスコ世界遺産センターへの推薦書の作成、諮問機関(ICOMOSやIUCN)による現地調査、そして21カ国で構成されるユネスコ世界遺産委員会での審議という極めて複雑なプロセスを経る必要があります。イタリアや中国は専門の研究機関を組織し、多額の予算と外交リソースを投入して戦略的に推薦物件を準備してきました。
第3の理由は、1972年に採択された世界遺産条約への早期締約と積極的関与です。世界遺産制度の創創世期から条約の枠組みづくりに深く関わってきた国ほど、登録基準のノウハウを蓄積し、黎明期に数多くの国内候補地を一括して登録へと導いた歴史的背景があります。