こうした事象が世間の強い好奇心を惹きつけてやまない背景には、映画・映像制作産業が築き上げてきたフィクションの歴史も深く関わっている。人が溶解・変容していく不気味なモチーフは、映画界において独自のジャンルを確立してきた。
その先駆者であり金字塔と称されるのが、巨匠デヴィッド・クローネンバーグ監督による映画『ザ・フライ』だ。ハエと遺伝子レベルで融合した主人公が次第に肉体を崩壊させていく様を描いた本作は、ボディ・ホラーの最高峰として今なお語り継がれている。また、未知のウイルスや怪異によって人が変貌するSFサスペンス作品群も、観客の潜在的な恐怖心を刺激し続けてきた。
しかし、エンターテインメントとしてのボディ・ホラーやSFサスペンスが描く歪んだ肉体美学とは裏腹に、現実に起こる産業事故や被ばく事故の現場には何の美情も存在しない。スクリーン上の虚構と現実に起きる惨劇との境界線を正しく理解することこそが、パニックを回避する第一歩となる。