ネット上やSNSのコミュニティで頻繁に交わされる「保冷剤を首にあてるのは実は逆効果」という言説。この噂の背景には、人体の精緻な体温調節メカニズム(ホメオスタシス)が関係しています。
冷凍庫から出した直後の蓄冷材は、表面温度がマイナス10℃からマイナス15℃前後にまで達しています。このような極低温の物体を無防備に首元へ密着させると、皮膚表面の受容体が「極度の寒冷環境に晒された」と判断し、熱を逃がさないように末梢血管を急激に収縮させます。その結果、血流が滞って深部熱が体表へ運ばれなくなり、「皮膚表面は冷たいのに、体内には熱がこもり続ける」という熱中症のトラップが発生するのです。
さらに見過ごせないのが、視床下部(体温調節中枢)の認知エラーです。首筋の局所的な冷感を強く感じすぎると、脳は「体温は十分に下がった」と錯覚します。これにより、本来生じるべき発汗や皮膚血流の拡張といった自然な放熱反応がストップしてしまい、結果的に深部体温の上昇を招くケースが臨床現場で確認されています。「冷たくて気持ちいい」という主観的な快感が、必ずしも生体にとって正しい冷却を意味しない点が、この問題の根深い要因です。