市販の粉末ペクチンを買い揃える必要はありません。りんごという果実には、植物の細胞同士を強固に結びつける天然のペクチンが豊富に蓄えられています。その大半が集中している部位こそが、普段は包丁で削ぎ落とされがちな「皮の直下」です。皮ごと調理するアプローチは、フードロスの削減にとどまらず、ジャムの物理的テクスチャーと色彩を劇的に向上させる極めて合理的な手法です。
りんごの皮には、赤色系ポリフェノールの一種であるシアニジン配糖体(アントシアニン系色素)が含まれています。この色素は酸性条件下で鮮やかな赤色に発色する性質を持っています。皮を厚さ1〜2mm程度のいちょう切り、または薄切りにして果肉と一緒に加熱すると、熱とレモンの酸によって皮から色素が自然と浸出し、着色料を一切使わずにうっすらとしたピンクから深みのあるルビー色へ染め上がります。
ネット上の相談窓口やレシピ投稿サイトで頻繁に見受けられる「ジャムが固まらない」「サラサラのシロップになってしまった」という失敗。この現象は、ジャムが固まる三要素である「ペクチン濃度(1%以上)」「糖度(55〜65%付近が理想、最低でも30%以上)」「酸度(pH2.8〜3.2)」のバランスが崩れた際に発生します。特に完熟しきったりんごや収穫から時間が経った果実は、ペクチンが分解されて水溶性に変化しており、凝固力が低下しています。
もし加熱後に冷ましても十分な粘度が出ない場合は、慌てる必要はありません。果実の酸度が足りていない可能性が高いため、レモン汁を小さじ半分〜1杯追加し、ラップなしで電子レンジ(600W)で追加1分〜1分30秒加熱して水分を飛ばしてください。また、裏技としてりんごの芯の周囲(ペクチンが最も濃厚な部分)をお茶パックに入れて一緒に加熱し、仕上げに取り出す方法も、凝固剤なしで濃厚なとろみを得る有効な手段です。