プログラムの理解を深める上で欠かせないのが、坂本花織 原曲アーティストであるエディット・ピアフの数奇な運命と、楽曲に宿る言霊です。
20世紀のフランス歌謡界を代表するピアフは、貧困のなか路上で歌い始め、最愛のボクサーであるマルセル・セルダンの飛行機事故死など、過酷な喪失と病魔に苛まれながらも命を削って歌い続けた不世出の歌姫でした。坂本花織 フリー曲 歌詞和訳に目を通すと、終盤のハイライトを飾る『Non, je ne regrette rien(水に流して)』のフレーズが、五輪の舞台に立つアスリートの覚悟と驚くほどリンクしていることに気づかされます。
「Non, rien de rien / Non, je ne regrette rien
(いいえ、何ひとつ / 私は決して後悔しない)
Ni le bien qu'on m'a fait, ni le mal / Tout ça m'est bien égal
(私に施された善意も悪意も / すべて私には同じこと、どうでもいいの)
Car ma vie, car mes joies / Aujourd'hui, ça commence avec toi
(だって私の人生も、私の喜びも / 今日、あなたと共にここから始まるのだから)」
北京五輪での栄光、その後の燃え尽き症候群との戦い、世界女王として挑み続けた重圧の日々。数え切れないほどの苦悩を乗り越えてきた坂本選手が、全身全霊のステップを踏みながら「私の選んだ道に悔いはない」と叫ぶかのようにリンクを舞う姿は、言葉の壁を越えて世界中の観客の涙腺を崩壊させました。単なる楽曲の伴奏ではなく、スケーターの内面と音楽のフィロソフィーが完全に一体化した瞬間でした。