本来、北極海やオホーツク海などの流氷域に暮らすはずのアゴヒゲアザラシが、なぜ東京湾や都市河川にまで迷い込んできたのでしょうか。海洋生物学者らの見解によると、主に2つの要因が重なったと分析されています。
第1の要因は、「親潮(千島海流)への迷入」です。春先にオホーツク海などで生まれた幼獣は、流氷の移動や南下する寒流に乗って北海道沿岸まで流されるケースがあります。タマちゃんの場合、何らかの理由で親潮の強い流れに巻き込まれ、そのまま本州東岸を南下して東京湾口に達してしまったと考えられています。
第2の要因は、都市河川の「豊富な餌資源と穏やかな環境」です。アゴヒゲアザラシは海底や川底にいる甲殻類、貝類、ハゼやボラなどの魚類を好んで捕食します。アゴの周りに生えた豊かなヒゲ(触毛)をセンサーのように使い、濁った水中でも獲物を探す能力に長けています。
当時の多摩川や帷子川、荒川の河口・下流域は水質改善が進んでおり、ボラやアユ、カニなどの餌が豊富でした。さらに、外洋のようなシャチやサメといった天敵がおらず、潮の満ち引きで露出する消波ブロックや中州が格好の日光浴場所となったため、長期間にわたって居心地よく定着したと推測されます。