かつてのカンゴームは、粗野でぶっきらぼうながらも仲間思いで、危機に瀕したフォスを命がけで守り抜くストイックな武人肌のキャラクターでした。冬の担当としてアンタークチサイトを失ったフォスの精神的支柱となり、多くの読者から「最高のバディ」として絶大な信頼を寄せられていたのです。
しかし、単行本第9巻以降、カンゴームは劇的な変貌を遂げます。月面へと渡った後、月人の指導者エクメアの手によって瞳に埋め込まれていた「ゴースト・クォーツの残存インクルージョン(鉱物内部の微小包有物)」を除去された瞬間から、その態度は180度反転しました。フォスへの過剰な保護意識は霧散し、華美なドレスやフリルを身にまとい、自らを「プリンセス」と称してエクメアに甘える妖艶な姿へと生まれ変わったのです。
このカンゴームが変わった理由の核心は、人格の崩壊ではなく「借り物の使命からの解任」にあります。カンゴームはもともと、ゴースト・クォーツの体内組織の内側に存在した「中の子」でした。ゴーストが月に連れ去られた際、外層が剥ぎ取られて剥き出しになったカンゴームの瞳には、先代であるゴーストの「フォスを頼む、見守ってくれ」という強烈な残留思念が遺留していたのです。つまり、これまで読者が胸を打たれていた献身は、カンゴーム自身の純粋な愛情ではなく、断ち切ることのできない「他者の呪縛」によって強制されていた行動様式でした。
呪いが解けたカンゴームが直面したのは、「自分自身の欲望が完全に空っぽである」という残酷な空白でした。そこへ巧みに入り込み、過剰なまでの肯定と無条件の愛を注いだのがエクメアだったのです。荒々しい戦士の鎧を脱ぎ捨て、庇護される存在へと退行した姿は、強制された義務から逃れ、初めて手にした自堕落な自由の表現でもありました。