犯行当時、メディアでは「派遣社員としての格差への怒り」や「秋葉原特有のオタクカルチャーの暴走」といった短絡的な見出しが躍りました。しかし、警察の捜査や法廷での審理が進むにつれ、その深層にあった決定的な動機はネット掲示板における自尊心の破綻であったことが明らかになります。
加藤は当時、静岡県裾野市の自動車工場で派遣労働者として勤務していましたが、私生活における唯一の心の拠り所は携帯電話専用の電子掲示板でした。自らの日常や孤独感をリアルタイムで書き込み、それに対して返ってくる他者からのリアクションだけが、彼の承認欲求を満たす生命線となっていたのです。
しかし、犯行の数か月前から掲示板内で自身へのなりすまし投稿や激しい「荒らし行為」が発生します。加藤にとって自らのアイデンティティそのものであった掲示板のコミュニティから排斥され、無視されるようになったことで、彼の精神状態は急激に悪化していきました。自著や公判での供述によると、「掲示板の人々に自分の存在を認めさせ、荒らしをやめさせるためには、誰もが驚愕するような重大事件を起こすしかなかった」という歪んだ論理が形成されていきました。
事件直前の6月5日、職場で作業着が見当たらなかったことを「解雇の予兆」と思い込み、無断欠勤した加藤はそのまま暴走を開始。福井県でダガーナイフを購入し、レンタカーを手配して秋葉原へと向かう道中にも、掲示板へ自らの行動を実況するように「秋葉原で人を殺します」「時間になりました」など、合計983回にも及ぶ投稿を執拗に繰り返していました。誰かに止めてほしいという微かな叫びと、引き返せない破滅願望が交錯した末の犯行でした。