なぜ「うかんむりに貫」という複雑な字形が「実(みのり・まこと)」を意味するようになったのか。その背景には、古代中国の漢字の成り立ち(会意兼形声)が深く関係しています。
「宀」は家や屋根、祖先の霊を祀る廟屋を表します。その下にある「貫」は、古代の通貨であったタカラガイ(貝)に紐を通し、ぎっしりと連ねた様を表す象形です。すなわち「實」という文字は、「家の中に溢れんばかりの財宝が満ち満ちている情景」をそのまま象ったものでした。
ここから転じて、「中身が充実する」「満ちる」「草木が豊かな果実をつける(実る)」という意味が派生し、さらには虚偽のない本質を表す「まこと・真実・誠実」という精神的な徳目を指す文字へと発展を遂げました。
戦前の日本においては、公文書から教科書に至るまでこの「實」が正字として標準的に使われていました。しかし、1946年(昭和21年)の内閣告示「当用漢字表」およびその後の簡略化指針に伴い、画数の多い「實」に代わって、かつて俗字や草書体などに由来する簡略形だった「実」が新字体として正式に採用された経緯があります。